学校案内
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2022年度東京大学入試問題国語第四問は、長田弘さんの「詩人であること」から出題されています。
出題文の最後に以下のような一文があります。
「たいせつなのは、だから、わたしたちの何がおなじか、をではなく、何が違うのかを、まっすぐに語りうる言葉なのだ。」
私たちはこの一文を読んだ時にどのように感じるでしょうか。
私たちは同じ考え、同じ価値観の人を求めています。自分と同じ考え方の人と一緒にいれば、安心します。そして喜びまでも感じます。そのため何が違うのかを語るよりも、何が同じであるかを語るほうがよいのではないかと感じる人もいると思います。
一方で、同じであることによって感じる安心は、異なるものに対する不安につながります。また、その不安は異なる価値観を排除する可能性をもたらし、自分と同じ価値観の人とだけコミュニケーションをとることにもつながる可能性があります。それでは新たな価値観は生まれることはありません。
長田弘さんは、「わたしたちはたがいに現にさまざまなかたち、位相で、差異をもちあっているのだから、一つひとつの言葉をとおして、わたしたちがいま、ここに何を共有しえていないかを確かめてゆく力を、じぶんにもちこらえられるようにする。」と述べています。
長田さんはそのような現状に対して、あえて言葉を通して「何を共有しえていないか」を確かめることを求めています。
これは非常な困難を伴います。人と人が異なる価値観を持っていれば、それが争いの種になったり、排除につながる可能性があるからです。
異なる価値観を争いや排除に結びつけるのではなく、自分の中に「もちこたえる」という困難を引き受けることを求めています。
また長田さんはそのような作業を通じて「わたしたちは言葉をとおして他者をみいだし、他者をみいだすことによって避けがたくじぶんの限界を見出す」と述べています。
異なる価値観をもつ他者とコミュニケーションをとることが、さらに「自分の限界」を見つけるというのも非常につらいことです。自分の限界を知るということは無力感にもつながるからです。
一方で、自分には何でもできる、というのは傲慢さにもつながります。「限界」を知ることは、その限界を突破するためのスタートラインだとも言えます。
つまり長田さんは、言葉によるコミュニケーションは、他者の異なる価値観を、争いや排除を起こす可能性や自分の限界に気付かされるような困難を伴うが、その先にしか、新しい価値観の創造はありえない、ということを伝えてくれているのだと思います。
<まとめ>
現代に生きる私たちに最も求められている能力の一つが「コミュニケーション能力」です。
そのコミュニケーション能力は安易に獲得できるものではなく、多くの困難をともなうが、その先に新たな価値観の創造があります。